「しんでびびらせるか」
これは、虐待経験者の作者が生み出した絵本「わかってほしい」に書かれている一文です。
真っ赤な表紙に描かれているかわいいくまのぬいぐるみ。
くまのぬいぐるみの表情はどこか寂しそうで、ページをめくるたびにボロボロになっていきます。
厚生労働省によると、平成26年度の児童相談所の児童虐待相談対応件数は88931件です。
平成25年4月1日から平成26年3月31日の間に児童虐待で死亡した子供は69人。
たくさんの子供の命が虐待によって奪われています。
「わかってほしい」という絵本、まずは大人に読んでいただきたいです。
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虐待をシンプルかつ衝撃的に伝える絵本「わかってほしい」
綺麗事は一切なく感覚的に訴える
また?
なんのためにうんだの?
作者の気持ちが、次第にボロボロになっていくクマのぬいぐるみの隣に書かれています。
黒い文字が溢れ出る気持ち、白い文字が抑えこんだ気持ちです。
「しんでびびらせるか」
「でもあきらめない」
最後に首がなくなっているくまのぬいぐるみ。
虐待を受けている人の心と体がボロボロになっていく様子が伺えます。
綺麗事は一切なく、感覚的に訴えてくる絵本です。
虐待を受けていた作者が伝えたいこと
虐待をする親でも子供にとってはその人しかない
「わかることはひとつだけ あいされたい。」
これは絵本に書かれている作者の伝えたい想いです。
この絵本の作者であるMOMOさんは、虐待を受けていた時に絵本に救いを求めたことがあったそうです。
しかし、どの絵本も現実とは違う「優しい雰囲気」でした。
「現実はこんなもんじゃない。実際は血も出るし骨も折れる」
MOMOさんが中1の頃に両親が離婚し、その後お父さん、妹、弟と暮らし始めてから暴力をふるわれるようになります。
「父親を殺してしまおうか、それは自分が本当にしたいことなのか」
最初は拳で殴られていたものが木に、最後は鉄の棒に変わっていく中で起こる葛藤。
「本当は愛されたい」
その気持に気がついた時に、先に家を出ていた弟に続き、妹を連れて家を出たそうです。
愛されていないのか愛されているのか、どうして自分が生きているのかさえも自問自答しながら、それでもいつか愛してもらえることを諦めきれない。
「虐待をする親でも、子供にはそのひとしかいない。愛されたい。」
ただただ愛されたい。
それなのにひどい仕打ちをされるのを想像するだけで胸が痛いです。
「しつけのためにやった」
虐待をする親は決まってこんなことを言いますよね。
多くの親が「虐待としつけの境界線」について考えたことがあるかと思います。
しつけと虐待の境界線
親が子供にとって安全で安心できるかどうか
昔は、親の言うことを聞かない子供が外に放り出されたりする事はよくある光景でした。
今そのようなことをしたら、虐待を疑われる可能性もありますよね。
八尾市のHPに、しつけと児童虐待の違いについて次のように記載してありました。
■児童虐待
子供の心や体を傷つけ、子供の健全な成長と発達を妨げる行為。
■しつけ
子供の欲求や理解度に配慮しながら、生活習慣や生きていく力、思いやり、社会のルール・マナーなどを身に付けるよう働きかけること。
しつけは、「子供の視点」で考えることが大切です。
- 子供が健康かつ安全であること
- 子供にとって必要なものが与えられているか
- 親が子供にとって安全で安心できる存在か
これらのことが当てはまらない場合は、しつけではなく虐待と言えるでしょう。
虐待に気づいたらどうする?
児童相談所の全国共通ダイヤルに電話
もしも虐待かもと感じることがあったら、児童相談所の全国共通ダイヤルに電話しましょう。
児童相談所全国共通ダイヤルの番号は「189」(いちはやく)です。
以前は10桁の番号でしたが、いちはやくSOSをキャッチするために平成27年7月1日から3桁の番号に変わりました。
厚生労働省のHPには、全国共通ダイヤルの利用について次のように記載されています。
・虐待かもと思った時などに、すぐに児童相談所に通告・相談ができる全国共通の電話番号です。
・児童相談所全国共通ダイヤルにかけると、お近くの児童相談所につながります。
・通告・相談は匿名で行うこともでき、通告・相談をした人、その内容に関する秘密は守られます。
虐待かもと思った時だけでなく、子育てが辛くてつい子供にあたってしまう状況の人も電話で相談できます。
虐待を受けている子供に見られる兆候はこちらです。
- 怪我をしているけど理由は話したがらない
- 普通は怪我をしないはずの見えない場所に外傷がある
- 未治療の虫歯が多い
- 体や服が異様に汚れている
- 服を着替えていない
- 季節外れの服を着ている
- 爪が伸びっぱなし(噛んで伸びない場合もある)
- 無表情・大人に対して怯える(逆に大人にベタベタすることもある)
- 食べ物の執着が強く、与えられるとむさぼるように食べる
「しょっちゅう泣き声や怒鳴り声が聞こえていた」
虐待で亡くなった子供のニュースでは、近隣の方がインタビューに答える映像が流れることがありますよね。
私自身、育児をしていると大きな声で叱ることもありますし、イヤイヤ期の頃には子供が大きな声で泣いてしまうこともありました。
ですから、そういう声が多少聞こえたくらいでは虐待を想像することができません。
しかし、毎日、または長時間そのような声が聞こえたら気になるでしょう。
もしも虐待を受けているかもしれない子供を見かけたら、児童相談所全国共通ダイヤルにかけてあげてください。
虐待を少しでも減らすために
子供を救済するとともに育児中の親のサポートを
虐待を減らすためには、虐待を受けている子供の救済と、虐待をしてしまう親目線で考えることも必要だと思います。
虐待者の多くが実親だという現状をご存知ですか?
以下は虐待者の内訳です。
▼平成26年度児童相談所における児童虐待相談対応件数の内訳
- 実父・・・34.5%
- 実母・・・52.4%
- 実父以外の父・・・6.3%
- 実母以外の母・・・0・8%
- その他・・・6・1%
テレビやネットでは実父以外の父からの虐待のニュースが印象に残りますが、86・9%が実親からの虐待です。
中でも実母からの虐待は最も多い数字となっています。
どんな理由があっても虐待は許されないことですが、虐待をする親の心理状況を考え対処することも必要ではないでしょうか?
シングルマザーや核家族という環境で、ひとりで育児を背負っている母親も少なくありません。
産後の体力低下の状況で、不眠不休に近い乳幼児の育児を母親が一人で背負っていくのは精神的にも肉体的にも過酷です。
虐待を受けた子供の年齢構成別の内訳はこちらです。
- 0~3歳未満・・・19.7%
- 3歳~学齢前・・・23.8%
- 小学生・・・34.5%
- 中学生・・・14.1%
- 高校生等・・・7.9%
生まれてから学齢前の幼い子供が43.5%という高い割合で虐待を受けています。
どんな理由があっても虐待は許されませんが、世の中は「育児中の親子を見守る温かい目」が欠けていると感じています。
誰かに相談したくてもできない。
周りに迷惑をかけないようにしなければ。
一人で頑張らないと。
そういった思いは、必要以上に自分を追い詰めてしまうことに繋がります。
社会全体で子供を育てる日本で会って欲しいと思います。